補)空耳について

まずは下の動画を観ていただけますか。ロシアの同系統の楽器グースリの演奏です。

右手はギターのように弦をかき鳴らして、そして左手の動きが特徴的です。がばっと5本の指で弦を押さえて、押さえた指でちまちまと弦を弾いています。ギターのようなじゃんじゃんした伴奏の合間に聞こえる細かいメロディがこれなわけですが……

ちゃかちゃかとたくさんの音が聞こえるわりには、なんだか左の指の動きが少ないというか、本来の半分しか弾いてないような?耳と目が合わない、騙されているような不思議な感じがします。

ゲシュタルト心理学の錯覚を利用する奏法

実際、左手はメロディを半分しか弾いていません。
つまりまともにメロディになっていないのですが。

人間の脳には無関係なばらばらの物事を、一つのまとまった物事として理解したがる習性がありまして、そのため、左手が弾くばらばらの音を聞くと無意識のうちに(よく聞き取れないけど本当は何かきちんと弾いてるんだよね?それはつまりこんなメロディ?)と、右手の伴奏から使えそうな音を拾い出して左手の音を補完し、それらしいメロディを頭の中に作り出すのです。

つまり私達がこの動画で聞いているメロディは錯覚――空耳です。

この、ゲシュタルト心理学に基づく錯覚を積極的に利用する珍しい奏法は、バルト海東沿岸の国々――フィンランド、エストニア、ラトビア、ロシアなどの国々の、弦の数が10本程度の小さい原始的なハープに見ることができます。